創作

□夜明け前の独奏‐shizuya‐
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 ベッタリ手のひらにくっつく、赤。

「ねえ」

 後ろから声がした。

 振り返ると、さっきの女の子がボクの背中にくっついている。

「一緒に、来て」

 足平気?そう聞こうとしたら、女の子はニッコリ笑った。

「静弥っ!!」
「え?」

 お母さんの声と、車のブレーキが聞こえた。



 気付いたら、ボクはお母さんに抱えられていた。

 地面にお尻をつけて、お母さんはボクをギュッと抱き締める。
 腕の隙間から、白い車が止まっているのが見えた。

 ボールは、なくなっていた。

 さっきまでお母さんと一緒にしゃべっていたおばさん達が慌てて寄って来た。

『大丈夫!?二人共ケガしてない!?』

 何か言ってるけど、お母さんの心臓がドコドコ言って、よく聞こえない。

『怖いわね…この前も事故があったのよ』
『ああ、あったわね!その時も確か…』

「女の子」

 ボクの回りにいるおばさん達が息をのんだ。

「…女の子?」
「女の子、いたよ。ボクの背中に、さっきまで」
「何言ってるの、静弥!あなただけだったじゃない!道路に飛び出して、何考えて…」

「いたよ!いたでしょ!?お母さんだって手を振ったじゃん!」
「静弥…?」

『…女の子だったわよね、事故に遭ったの』

「ボール取ってって、ボクにボール取って来てって言ったよ!いたもん!」

『…転がったボールを追いかけて、そのまま…』

「赤い服着て、いたもん!足が痛いって」

『…女の子は足が千切れて…』

「赤い水玉模様のボールを取ってって、」

『…その子の血で、ボールが染まったって…』

「ほらお母さん!そこにいるでしょ!!」


 ニッコリ笑って、ほらそこに。


「静弥…静弥…」

 お母さんは泣きながら、献花台があるだけでしょ、って呟いた。

 お母さん、けんかだいって何?





「もう耐えられない」

 その夜、お母さんがお父さんに言った。

 苦しそうにしている二人を見て、ボクは悪い子なんだと思って泣いた。



 次の日、ボク達が行ったお寺には、小さい男の子がいた。

 真っ黒な瞳の子は、「きょうたろう」と小さく名乗った。



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