創作

□暁の二重奏
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 目の前で笑い合う子供二人を見て、住職は息を詰めた。

 死に脅かされることもなく、希望に満ちた子供特有の気を身に纏って笑う。
 その信じられない光景に、ただ唖然とする。



 彼の一人息子の『特殊な体質』が発現してから、1年が経った。

 その間に息子は何度も生死の境をさ迷った。

 寺という特殊な環境下で生きていくには圧倒的不利なその『体質』は改善の兆しが見えず、日毎に子供の体力を削っていった。

 このまま緩やかな死を迎えるのだと、そう覚悟をし始めた頃。

 妻の友人夫妻が寺を訪れた。
 その用件は子供の御祓い。

 概要を聞き、その子はそういったモノを引きつける『体質』なのだと住職は当りをつけた。

 生命力が満ち溢れており、零れ出る生気の恩恵を享受すべく様々なモノがその子に寄り集うのだろう。

 そんな想定をして、住職は皮肉に唇を歪めた。

 住職の子供は生命力が乏しく、未来を望めない程生気を欠いている。

 満ちていても、欠けていても、上手く生きられない。

 対極ともいえるその『体質』を、足して2で割ったらどんなに幸福であるか。
 考えても儚い夢幻でしかないその思考を、住職は自嘲気味に鼻で笑った。

「そんな都合のいい奇跡が起きるものか」







―――その数時間後。

 その『都合のいい奇跡』は現実のものとなり。
 住職は一層仏への信仰心を篤くすることとなる。



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