創作

□御伽噺異伝 伍
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 雪が吹荒ぶ冬山。
 今にも飛ばされそうな荒ら屋に、狩人親子が寝そべっていた。

 一つしかない部屋の中央に在る囲炉裏には、小さな火が揺らめいている。
 戸板の隙間から吹く風に儚く揺れる灯火だが、凍える夜を凌ぐための大切な、ただ一つの熱源だ。

 夜明けまであと数刻という時に、突然その灯が消えた。

「…な…」

 突如増した寒さに身を震わせ、息子は瞼を持ち上げた。
 闇に包まれた空間に、凍付いた風が吹付ける。

 寒気の原因を探れば、対面で寝ている父親の向こう、小屋の戸が大きく開け放たれていた。

 氷雪混じる風に押し負けぬようにと、眠る前に戸の前へ設置した瓶は小屋の角に転がっていた。

 荒狂う風が室内に吹込まれているのに目覚める気配の無い父親。
 音もなく倒れた瓶に前触れもなく開かれた扉。

 何かがおかしい。不穏な空気に身体を震わせ、息子は闇に染まる戸の向こうを凝視した。

「!?」

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