創作

□御伽噺異伝 伍
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「えっと…」

 とりあえず、と息子は珍客達に囲炉裏の側へ寄るように勧めた。
 その言葉に素直に甘える二人とは対照的に、女は土間で立ち竦む。

 困惑と苛立ちがない交ぜになった表情を浮かべる女に、息子は再び声をかけた。

「どうした?おまえさんも早くあたれ」
「…」

 青年達の登場により、先程まで漂っていた恐ろしいまでの緊張感は見事に消え去っていた。
 それに伴い、息子の中にあった女に対する畏怖の念も薄れ、普通の村娘にするような対応がとれるようになった。

 その変化に女は顔をしかめるが、黙って板敷きの上に腰を下ろす。
 囲炉裏の側を勧めて微笑めば、顔ごと視線を逸らされた。

 釈然としない気持ちを抱えているのか、女は唇を突出しむっつりと黙り込む。
 折角の美貌が勿体ないなと息子が眺めていると、視界の外で大きなくしゃみが聞こえた。

「うぅ…すみません」

 くしゃみの主は、鼻を啜りながら照れ臭そうに頭をかいた。

「いや、本当に寒いですね今晩は」
「はあ、まあ…その格好ではそりゃあ寒いでしょうとも…」

 先程は緊張の糸が切れた直後だったため気付かなかったが、見れば青年達は冬山に対する備えを一切していない。

 雪駄どころか笠も蓑も装備していない状態で雪山に入るなど自殺行為でしかない。
 よくこの小屋まで辿り着けたものだと妙に感心してしまう。

 そんな息子の心情は露知らず、青年は荷物を下ろしながら仲間に声をかけた。

「やはり、人の身にこの寒さは堪えるか?」
「我慢出来ない程ではないから大丈夫。桃にもらった団子のおかげだよ」
「そうか。なら良い」

 人の身?団子?
 会話の中に出てきた言葉に、息子と女が揃って首を傾げる。


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