創作

□御伽噺異伝 伍
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 不可解な事象の連続に、そろそろ息子の頭は許容量を越えそうだ。
 一寸前まで場の支配者であった女も、主導権を青年達に奪われて内心不満が溜まっていた。

 そんな彼らの心にはお構いなしに、青年は「そうだ」と言って二人に声をかける。

「お前達もこれを食え。力が湧くぞ」

 そう言って腰に括りつけてあった袋へおもむろに右手を突っ込み、団子を二つ取り出した。

 あけすけな笑顔と差し出された団子を見比べ、息子は戸惑いながら腕を伸ばした。
 逡巡した後口に放り込む。咀嚼してみれば普通の黍団子の味がした。

 ありがとうと礼を言えば、青年は満足そうに頷いた。

「ほら、お前も食え」
「いらない。私に近付くな」

 女は棘のある声色で拒むも、それより強い否定でもって青年が返す。

「近付かないと団子が渡せないだろう。いいから食え。お前も人ならその薄着は辛いはずだ」
「っ、触るなっ」

 肩に触れた青年の左手を女は容赦なく打ち払った。
 パン、と乾いた音が室内に響く。

「何を怒る。素直に食え」
「…なめた真似をするのもいい加減におし」

 地の底から這い出るかのような声音を発し、女は流麗な所作で立ち上がった。
 その声と動作の差異に常人ならば恐怖を覚えたかもしれない。

 しかし今回ばかりは違った。常人ではない青年が、女の作る空気を砕く。

「火から離れるな。寒さが増す。団子一つだけだ、早く食え」
「だから食わないと言っているだろうっ」

 遂に声を荒げて女は肩を怒らせる。

「なんだこの男は…この私を誰だと思っているっ」
「知らん。そうか、お前団子が嫌いなのか」
「団子から頭を離せ」

 キイと喚き、女は両手を胸の前で震わせて叫んだ。

「いいか、よく聞け。私はこの山に住まう氷雪と死の象徴、雪お…」
「ひっくしゅんっ」

―――ズズッと鼻を啜る音。

「あ、すみません…どうぞ続けて下さい」

 すまなそうに頭を下げる若者に見事に勢いを殺され、女は遂に投げ出した。


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