創作

□あおぞら六重奏〜十人十色の青春だ〜
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「4時間目体育だったの?」

 祥生と京太郎がジャージ姿のままでいる事に、恵子が疑問を投げ掛ける。
 6人が在学しているこの県立高校ではブレザータイプの制服が存在し、常時着用が義務付けられていた。
 ただし、体育の授業や部活動を行う際は例外とされ、ジャージの着用が認められている。

 校則に基づいた恵子の推測は当たり、祥生は首を縦に振った。

「うん。7組と合同で、男子はハードル走」
「着替えより先に昼にしたかったからな」

 だからこのまま来た、と京太郎が付け加える。
 その言葉に納得し、恵子は「お疲れ様」と労った。が、静弥と勝太がそれに食い付く。

「ハードルやったの?タイムいくつ!?」
「お前らハードルに出るのか!?」

 普段動じない祥生と京太郎だが、そのあまりの勢いに思わず目を円くする。
 しかし、来月に控える行事を思い出して二人の態度に合点した。

「さすが静弥と勝太。もう燃えているんだ」
「うん!8組にも負けないよ!優勝はボク達5組だからね!」
「おっと、そいつぁ違うぜ!優勝は俺達1組だかんな!」
「ぬっ!言ったな、勝ちゃん!」
「言ったぜ、俺!」
 また睨み合いを始めた二人だが、今度は座したままなので恵子は黙って眺めるに止めた。
 その隣りでは京太郎と祥生が遅れを取り戻すかのように昼食を食べ進めている。


「そういえば、恵子ちゃん達のクラス、どの種目に誰が出るとか決めた?」
「うん、昨日にね。5組は?」
「こっちも昨日よ。祥生ちゃん達のクラスは?」

 おっとりと話を向けた朋絵と目が合い、祥生は咀嚼中の白米をお茶で飲み下した。

「ん、うちも昨日決めた。他のクラスも昨日決めたらしいよ」
「やっぱり体力テストの記録を参考にしたの?」

 他のクラスの情報も掴んでいる祥生に、恵子も言葉を掛ける。
 1組は体育委員を中心に出場選手を決めたが、その際に利用したのが4月に行われた体力テストの記録だった。
 女子の体育委員である恵子はその時の事を思い出し、他もそうかと祥生に問うた。

「うん。まあ、それが無難だしね」

 「優勝を目指すなら」と付け加えた祥生に、火花を散らしていた二人が敏感に反応する。

「やっぱり8組も優勝狙い!?ライバルだねヨッシー&キョータ!」
「そうこなくちゃ張り合いがねえしな!」
 鼻息荒い静弥と勝太は楽しそうに声を張り上げる。

 それをキツネのような笑みで見やり、祥生は紙パックのコーヒー牛乳を二人の前に掲げた。

「なら…賭ける?」
「いいよ!」
「のった!」

 即座に受けた静弥と勝太に、恵子は苦笑いし、朋絵は穏やかに微笑む。
 京太郎は祥生にさらわれた自分のコーヒー牛乳に手を伸ばした。

「飲む」
「はい。京太郎ものるでしょ?」
「まあ、紙パックジュース1本くらいなら…」
「それじゃ張り合いがねーよ!掃除当番肩代わりとか」
「よそのクラスの掃除なんて代われないでしょ」
「じゃあ宿題肩代わり」
「もっと代われないわ!」

 ツッコミと同時に恵子に頭を小突かれて勝太は短い悲鳴を上げた。
 そんなやり取りもいつもの事と、他4人は気にせず会話を続ける。

「ボクや朋ちんもそうだったけど、二人も掛け持ちで出るの?」
「まあね。個人種目だと僕は400mリレーと50m走。京太郎は400mリレーと100m走」
「二人も400mリレーに出るの?ボク達も出るんだ!」
「そうなのか?」
「うん。静弥ちゃんは400mリレーと200mリレーで、私は400mリレーと長距離走に出るの」

 体育祭は学年別クラス対抗戦で、個人種目の掛け持ちは原則2つまでとされている。
 足の速さを問われる種目は例年体力テスト上位の生徒が掛け持ちする事が多く、今回も例外ではなかったようだ。

 元気が取り柄の勝太や静弥は勿論の事、実は他4人も運動神経が優れており、こういったイベントでは活躍する機会が多い。

 特に京太郎と朋絵は見た目に反して運動能力が高く、彼らが打ち出す記録は度々周囲を驚かせてきた。

「まあ、でも。今度の体育祭で活躍すれば朋絵の心労も少しは軽減されるんじゃない?」
「?」

 唐突な祥生の言葉に静弥と朋絵が揃って首を傾げると、弁当を食べ終えた京太郎がなるほどと頷いた。
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