創作

□あおぞら六重奏〜辛い○○も吹っ飛ばせ!〜
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「さて、何のことやら」

 勝太と静弥が試験の存在を忘れていた事に、敏い祥生が気付かなかったというのもおかしな話だ。確信を込めて祥生に質した恵子だが、どうやら正解のようである。

「早い内に痛い目を見れば、懲りて今後は注意するようになるさ」
「まあ、それはそうかも知れないけど」
「大丈夫。1年の1学期中間考査なんて、一番比重の軽い試験なんだから。期末である程度挽回できれば殆ど問題なんてないよ」
「そういうものなの?」
「そういうもの。それに部活の試合もだいたい終わっているし、赤点取ってもそう響かないしね」
「祥生…あんたそこまで考えて…」

 ただ甘やかすのではなく、真に友人のためになる事は何かと考え、実行する。その思いやりに触れて恵子は「あの祥生が」と胸を震わせた。

 しかし、感動する恵子を置いて、祥生は照れるでもなくこう続けた。

「って、京太郎も言っていたし」
「え?」

 今この場にはいない友人の名前が唐突に出たことに、恵子は目を瞬かせる。

「…京太郎が?」
「うん」
「…京太郎が、二人のためって言って、放置させたの?」
「そうだよ」
「…京太郎が、そう言ったから、あんたはただ放置した、だけなの?」
「もちろん」

 この京太郎至上主義が!!

 恵子は渾身の力でそう叫びたかったが、口にすれば最後という妙な感覚が邪魔したため、それは叶わなかった。
 代わりに脱力して校舎の壁に凭れかかり、笑顔のままの祥生に悪態をつく。

「…あんた、京太郎の言う事為す事すべてに賛成するわけ?」
「そんな、今更な事を恵子」
「…笑顔で言わないでよ…」

 友人を思いやる心は京太郎のものだったのか。同年代の男に対してその姿勢はいかがなものか。そういえばこんなオチが前にもあったような。
 そんな言葉が恵子の頭を何回転もしていると、ふいに頭上から声が降ってきた。

「嘘をつくな、祥生」
「!」

 落ち着いたテノールが紡ぐ言葉に、恵子は目を見開いた。その横で、祥生は悪戯が見つかった子供のような顔で声の主を見やる。

「京太郎」

 恵子が凭れた壁近くにはめ込まれた窓から、名を呼ばれた男子が顔をのぞかせた。
 一見茫洋とした瞳だが、よく見れば奥底に光を抱いている。常に泰然自若の構えを取る友人は、器用に窓枠に足をかけて校舎裏へと身を躍らせた。

 むき出しの地面に上履きのままで降り立った京太郎へ、恵子は疑問を投げかける。


「そういえば、あんたどこに行ってたの?」
「家に電話」

 簡潔に答えを返してから、京太郎は祥生へ向き直る。普段は京太郎へ笑顔を向ける祥生だが、今は憮然とした表情を湛えていた。

「嘘って、別に嘘じゃな…」
「最初に放っておこうって言ったのはお前だろ。二人のためになるからって」
「え?そうなの、祥生?」
「…」

 バツが悪そうに視線を反らす祥生と、悠然と佇む京太郎を見比べて恵子は目を円くする。


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