創作
□あおぞら六重奏〜辛い○○も吹っ飛ばせ!〜
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「ああ。静弥が試験の存在を忘れている事に気付いた俺に、祥生が勝太もそうだと言ってな…『下手に甘やかすのは良くない』っていう祥生の考えに賛同したから、俺も放置することにした」
「え、何?ホントに祥生の案だったわけ?」
「別に、放置した方が面白そうだったから…」
「祥生」
「っ」
窘めるでもなく、ただ名前を呟かれただけなのだが、祥生は顔を完全に真横に背けた。
少し癖のある髪の隙間からのぞく耳の縁が赤く彩られて見える。そんな祥生を見る京太郎は僅かに瞳を細め、口元を緩めた。
彼らの非常に珍しい様子を目にし、恵子はついまじまじと観察してしまう。
「俺の前以外でも、もっと素直になればいいだろ」
「僕はいつでも正直だよ」
「『みんなと高校生活送れて嬉しい』って他の奴に話したか?」
「いちいち言わなくていいよ京太郎っ」
照れる祥生に微笑む京太郎。何となく得した気分になり、恵子も顔を綻ばせる。
「何よ祥生。あんたも嬉しかったのね?」
「…人をからかおうなんて、恵子らしくないんじゃない?」
「そうじゃないわよ。それを確認できてあたしも嬉しいのよ」
「…」
目元を歪め、下唇を噛む姿に、京太郎と恵子は目を合わせて笑みを交わす。普段表に見せない祥生の優しさに、今度こそ触れる事ができた。その事が、予想外に嬉しい。
警戒心の強い猫に懐かれたような気分になり、恵子は上機嫌で祥生に尋ねた。
「じゃあ、二人が試験を思い出したところで…次はどうする予定なの?」
「…京太郎に訊けば?」
面白くないといった顔で呟く祥生の言葉を受け、京太郎が頷いて見せる。
「俺の家で連日勉強会だな。さっき親に許可とったから」
「夕飯もつくぞ」と続けて目元を緩める友人と、「もういいでしょ」と言わんばかりに拗ねる友人。
最初こそどうなる事かと思ったが、なかなか面白そうなイベントが起きるではないか。
良いイメージのない試験期間だが、幼馴染達の手にかかれば一味違った一週間となりそうだ。
これだから飽きない。一緒にいて楽しい。
停滞は嫌いだが、継続は好ましい。
なんと表せばよいのか分からずもどかしいが、恵子にとって、幼馴染達は大切な存在だ。
宝というには気恥ずかしいが、事実それに近い思いも抱いている。
「ほらほら、そこの三人!京太郎が場所提供してくれたから、今日の放課後から勉強会やるわよ!」
「え!?」
「いいの?キョータ!?」
とたんに瞳を輝かせる勝太と静弥を、朋絵が微笑ましそうに眺める。
「みんなで、頑張ろうね」
「おー!」
辛い試験もなんのその。幼馴染が揃えばそれは小さな祭にだって変ってしまう。
試験前というどこか憂鬱な空気が蔓延る校舎の一角で、男女六人の快活な声が響く。
それはこの先一週間、陰ることなく続いていく事を、その場にいた全員が知っている。
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