創作

□あおぞら六重奏〜下校前、猫の親子〜
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 放課を告げるチャイムが鳴り響いてから20分後、下駄箱に寄り掛かっていた勝太が声を上げた。

「あ」

 朋絵だ。
 その呟きに、周囲にいた友人四人が勝太の視線を追って振り向いた。

 LHRが終了した直後は帰宅する生徒で混み合っていた下駄箱だが、時計の長針が進むにつれて人波も引いていった。
 時折現われる遅出の帰宅者を除き、今や下駄箱周辺には朋絵と静弥を除いた幼馴染衆の姿しか見られない。

 そんな人気の少ない廊下に、リノリウムの床と上履きのゴム底が擦れる音が響く。
 足音の主は艶やかな黒髪を靡かせ、早歩きで勝太達へ近寄って来た。

「みんな〜」
「お〜一組やっとホームルーム終わったかー」

 息を切らさずやって来た朋絵を、勝太達は笑顔で迎える。
 しかし、もう一人の待ち人・静弥の姿はなく、京太郎は首を傾げた。

「お疲れ。朋絵、静弥は?」

 京太郎の疑問は予想済みだったらしく、朋絵は眉尻を下げて頷いた。

 今日から一週間、京太郎宅にて勉強会が開催される事が決定し、幼馴染六人は下校を共にするべく下駄箱へ集まっていた。
 あとは五組の静弥と朋絵のみというのが一分前の状況。
 そして全員集合にリーチがかかった状態で、朋絵が静弥遅延の旨を伝える。

「今日静弥ちゃん日直なの。だからもう少し時間かかりそうで…」
「だいじょぶじょぶ!いっくらでも待つぜ!」

 我が事のように申し訳なさそうに伝える朋絵へ、勝太は快活な笑みで返した。
 いつもなら張りのある勝太の大声を「うるさいわよ」と咎める恵子だが、今回は言葉の中身を評価したらしい。
 朋絵に気を遣わせまいとする勝太の言動に恵子は心の中で賛同した。

 けれども、気遣い無用といった姿勢を示しながら、その実誰よりも周りに気を配る恵子は鞄を肩に掛け直して朋絵に問うた。

「日直って、仕事何か残っていそう?手伝えそうなら手伝うけど」
「うん、日誌書くのと、辞書片付けるのが残っていたかな」
「辞書?」
「さっきのホームルームで使ったの」
「どんなホームルームだったのよ…」

 簡単な連絡事項と下校の挨拶を述べるだけのLHRで、何故辞書など登場するのか。
 脱力する恵子とは対照的に、情報通の祥生は訳知り顔で頷いた。
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