創作

□あおぞら六重奏〜下校前、猫の親子〜
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「一組の担任、金子先生だよね?あの人、『尊敬する人は金八先生』っていう熱血キャラだからね。独自の教育方針を持っているんじゃない?」

 そう言って、祥生はキツネのように目を細めて笑顔を作る。
 顔立ちが整っていることもあり、微笑みを絶さない祥生は『優しい』『穏やか』といった印象を周囲に与える。

 けれどそれが人を招き寄せるための微笑みではない事を、恵子達は長年の付き合いで知っていた。

 現によく観察すれば、弧を描く唇からは揶揄や皮肉が、細められた瞳からは狡猾さが窺える。

 冷血な性格ではないのだが、彼は斜に構えた態度を取り、他人を否定する節がある。

 一旦絆を結べば、その繋がりを祥生はとても大切にするのだが、そこまでの関係に至るまでが難しい。
 事実、彼が心を開いている人は、幼馴染を除いて殆どいない。

 警戒心の強い祥生は、頑なに人を寄せ付けまいと心に壁を作る。

 そんな友人の姿を寂しいと思う感情は飲み込んで、代わりに深い溜め息を恵子は吐き出した。

「…独特過ぎじゃない?辞書なんてホームルームでどう使うってのよ」
「けど実際に使ったって言うんだからさ。独特過ぎるホームルームだったんでしょ、朋絵」
「うん。話すと長くなるから割愛するね」
「長い説明が必要なホームルームだったの!?」

 恵子の反応に朋絵は苦笑で返し、脱線しかけた話を戻すべく、手短に要点だけを伝える。

「うん…とりあえず、この事をみんなに伝えるために来たから、また私教室に戻るね」

 それにより恵子も本題を思い出し、それならばと朋絵へ手伝いを申し出た。

「静弥の手伝い?なら私達も手伝うわよ」
「ありがとう、でも大丈夫よ。辞書も十冊くらいしかないし、もう一人日直の男の子もいるから手伝いは私だけで…」

「俺が行く」
「京太郎ちゃん?」


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