創作
□御伽噺異伝 漆
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「痛たた…ここは?」
「浦島?そこか?」
落ちた穴の底は暗く、一寸(=約3.03cm)先の様子を窺う事すら叶いません。
二人は手探りで相手の位置を確かめます。
するともう一つ、自分達のすぐ隣に蹲る物体の存在に気がつきました。
「ああ。先程の翁か」
「うわわわ」
正体が分かって力を抜く桃太郎に対し、浦島太郎は慌てておじいさんに手を伸ばします。
頭や腕の位置を手で探り、辿り着いた肩を慎重に抱き抱えました。
その際おじいさんの掌から、白くて握り拳大の塊がころりんと落ちたのですが、二人は全く気がつきません。
「おじいさん、おじいさん」
呼吸による空気の震えや時折漏れる呻き声から、おじいさんが僅かに意識を保っている事が分かります。
けれど全身を強く打っており、早急に手当てが必要な状態です。
焦る浦島太郎を眺め、桃太郎は顎に手を添えながら一つの案を提示しました。
「ふむ。黍団子を食わせてみるか?」
「それだ。桃、頼む」
「任せろ」
名案とばかりに浦島太郎は大きく頷きました。
それを受け、桃太郎は意気揚々と己の腰に提げている袋に手を伸ばし、中から団子を一つ取り出しました。
「食え。よく噛め」
そしておじいさんの口を探り当て、指で口内に押し込みます。
反射的におじいさんは顎を動かして団子を咀嚼し、飲み込みました。
弱々しく喉仏が上下に動いたのを気配で感じ、浦島太郎は安堵の息を吐き出します。
「とりあえずこれで良し…ありがとう、桃」
海鬼族お手製の黍団子が持つ絶大なその効力を、浦島太郎は実体験からよく知っていました。
「あとはゆっくり休める所で看病すれば、大丈夫」
「それにはここから出んとだな」
桃太郎の言葉に浦島太郎は頭上を仰ぎ、溜め息を零しました。
自分達は確かに穴の入口を通ってこの場に落ちて来たのですが…
「入口らしい光が見えないや。ここはお日様が届かない程、地中深い所なのかな」
「いや、それにしては落ちた時の衝撃が少ない。妙な場所だ。浦島、俺から離れるな…ん?」
桃太郎は上げていた視線を下ろし、己の正面をジッと睨みます。
すると暗いばかりであった筈の空間に、一つの小さな灯が点りました。
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