創作
□御伽噺異伝 漆
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桃太郎が探るように見つめ続けていれば、最初は小豆程であった灯が、少しずつ大きくなりながらこちらへ近付いて来ます。
そうして里芋程の大きさになった頃、灯が桃太郎達へ声をかけました。
「こんにちはちは」
「こんにちは…と、あれ?君はネズミかい?」
なんと正体は一匹の白いネズミでした。
ネズミは灯を携えておらず、その白い体がぼんやりと暗闇に淡く浮かび上がっています。
普通なら驚きのあまり叫んでしまいそうな事ですが、二人は平然とネズミと挨拶を交わしました。
「これはあなた達の物ですかすか?」
ネズミはヒゲを揺らすと、何処かから取り出した白い塊を二人の前に差し出します。
所々土がついていますが、それはれっきとしたおむすびでした。
実は先程おじいさんの掌から転がり落ちた物なのですが、その事を知らない二人は揃って首を振ります。
「もしやこの翁の物か?」
「そうだ。ネズミさん、すみませんがどこか休める所はありませんか?おじいさんを介抱したいんです」
「その人の物ならどうぞこちらへらへ。おむすびのお礼を致しますます」
特徴的な語尾のネズミに促され、浦島太郎はネズミの尻尾を、おじいさんを背負った桃太郎は浦島太郎の着物の裾を掴んで歩き出しました。
その際、目を瞑っていてくれと言われ、二人は瞼を下ろします。
「目を瞑らなくても、真っ暗だから何も見えないよ」
「決まり事ですからから」
ネズミは宙にぷかりと浮き、滑るように進んで行きました。
そうして連れられた先では、ネズミ達による大規模な餅つきが行われていました。
おむすびを細かく千切るネズミや、それを蒸籠で蒸すネズミ。
蒸された米をつくネズミに、出来たてのお餅を丸めるネズミ。
五十を越える数のネズミが一連の作業を分担して行っていますが、やはり花形はお餅をつく係のようです。
周囲の声援を浴びながら、つき手のネズミは金で出来た臼に向かい、同じく金で出来た杵を勢いよく降り下ろします。
「猫がいなけりゃ ほい とんとん。この世は極楽浄土だ とんとん。」
つき手と返し手の歌に合わせた見事な連携により、次第におむすびはお餅へと変わっていきます。
小さな体で器用にお餅をつく様子に、桃太郎も浦島太郎も手を叩いて歓声を上げました。
「これは凄い。俺も混ざりたい」
「おら達じゃ寸法が合わないよ。残念だけどね」
ならばせめてと、桃太郎は歌に参加することにしました。
ネズミ達の可愛らしい歌声と、桃太郎の快活な歌声が混ざり合い、場はより一層盛り上がりを見せます。
浦島太郎もおじいさんの介抱を続けながら、笑みを浮かべて歌の輪に加わっていきました。
「イタチがいなけりゃ ほい とんとん。この世はネズミの浄土だ とんとん…」
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