創作

□御伽噺異伝 漆之後
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 事の始まりは数刻前、南の空に太陽輝く昼の時へと遡る。

 桃太郎と浦島太郎が山中を歩いていると、斜面を転がり落ちる翁を目撃したのだった。

 慌てて追いかけると、翁に続き、不思議な穴へ二人はころりんと落ちてしまった。

 その不思議な穴では多くのネズミが暮らしており、ネズミはおにぎりと黍団子をくれた桃太郎達を歓待した。

「お土産ですです。どちらかをお選び下さいさい」

 全員で餅つきを楽しんだ後、ネズミは桃太郎達に土産を用意してくれた。
 特徴的な語尾のネズミが一声鳴くと、奥から葛籠が二つ運ばれてきたのだが……

「なんと、ちぐはぐな葛籠だな」

 桃太郎の感想通り、それらは大きさに随分と差がある葛籠であった。

 一つは人の背丈ほどもある大きな葛籠。
 もう一つは浦島太郎の玉手箱と同程度の寸法をした小さな葛籠。

 大小二つの葛籠を差し出され、どちらかを選んでくれとのこと。
 唐突に迫られた選択だが、桃太郎はあっさりと首を振った。

「気持ちはありがたいが、俺達は旅の途中だ。荷が増えるのは避けたい」

 簡潔な桃太郎の応えにネズミは僅かに髭の先を垂らしたが、続く浦島太郎の言葉にまたぴんと張らせて見せた。

「なので申し訳ありませんが、お気持ちだけ頂きます。代わりに、というのも失礼かもしれませんが…おじいさん。おら達の分まで受け取ってはもらえませんか」

 そんな彼らの言葉とネズミの様子に、翁は土産を辞退するという選択肢を候補の中から除外する。

 そして持ち運び可能という点で翁は小さい葛籠を選び、桃太郎達と共にネズミに送られて地上へ帰った。


 その後、桃太郎と浦島太郎に送られて、翁は妻の待つ家に無事に帰り着いた。

 翁が葛籠の蓋を開けると、なんと中には金銀財宝がぎっしり詰められているではないか。

 これには四人全員が感嘆の声を上げた。妻に至っては驚きの余り腰を抜かしてしまったほどだ。

 日々の糧を細々と繋いできた老夫婦にとって、これは充分過ぎる恵みであった。


 ――事が急転したのはここからだ。

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