創作
□御伽噺異伝 対
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羊水でべったり濡れたままの身体。
血管が透けて見える薄い皮膚。
つるりと丸っこい線の頭や尻。
それらを空腹で思考が衰えた状態で見続けると、次第に赤子が美味しそうな桃に見えてきてしまったのです。
判断力が極度に落ちている両親が、埃を被った調理道具から包丁を取り出すまで、そう長い時間はかかりませんでした。
骨と皮だけの腕が、包丁を念願の我が子へ振り下ろした、その瞬間。
生まれたばかりの赤子がぱしりと凶刃を受け止めました。
小さな、二寸にも満たない小さな掌が、危うげなく白刃取りをする光景に、両親は目を見開きます。
驚きに身体を固まらせていると、男の子は包丁を奪い、床に転がしました。
そして両の足ですっくと立ち上がり、呆けたままの親を見つめて口を開きます。
「私はお二人が神様に願い続けた結果、生まれた子です。私は二人に望まれて生まれたものと思っていましたが、どうやら大きな間違いだったようですね」
それだけ言うと、男の子は両親に背を向けて家を出て、村を去って行きました。
神様に願いを聞き届けてもらい誕生したその子には、常人ならざる力が宿されていました。
けれどその精神はまだ赤子。
両親の非道な振舞いに耐えかね、親子の縁を切り捨てたのです。
そうしてその男の子は人間を嫌うようになり、皮肉をこめて自らを桃太郎と名乗りました。
その後さ迷う中で出会った鬼により鬼ヶ島へ連れられ、そこで強く逞しく育っていったのです。
鬼達を大切に思う心と同時に人間不信の心も育まれ、桃太郎は悲しいほどに立派な鬼の首領へと成長を果たしました。
鬼を率いて人里を襲い、金品や食料を強奪し、人間に恐怖の感情を植え付ける。
冷酷非道な鬼の首領、桃太郎。
その名は人間の世界に瞬く間に広がっていきました。