創作
□鋪之章 桃ノ段
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「俺の名を呼べ」
空から声と共に降ってきたのは、これまた赤い顔だった。
「小者どもが。こんな所におったのか」
修験者が如き衣を纏い、手には八手の団扇を携える。真っ赤に燃える炎のような、赤い顔の闖入者。
その肌の色もだが、何より鼻が特徴的だ。とにかく長いその鼻は、測れば三寸はあるだろう。
その者は長い鼻を天に向け、青年を正面から見下ろした。
しかし、長鼻の横暴な言動もどこ吹く風と、青年は軽い調子で手を上げた。
「おお。お前も俺達を知っているのか」
「…ふん」
さらりとかわされ、長鼻は不満そうに鼻を鳴らす。
そんな二人のやり取りに、赤い着物の少女と緑色の生き物、そして青年を「桃」と呼ぶ若者がそれぞれの顔を見合わせた。
「あら、まあ」
「やあやあ」
「少なくとも、桃は大物だよね」
頷き合う三人を長鼻が睨み付ける。特に若者が呟いた言葉が気に入らなかったらしい。
地面を蹴り、今度は若者の前に降り立った。
「ふん。こいつらにも劣る弱き人の分際で姦しい。今度は岩の上に落としてやろうか」
口の端を引き上げて、見下した笑みを浮かべる。
不遜な態度の長鼻に、周囲の空気が強張った。
長鼻に「こいつら」と示された緑色の生き物が、鳥の嘴のような口をカチカチ鳴らす。
「やあやあ…相変わらず長い鼻だねえ。てっきり兄さんに折ってもらったと思っていたのに」
「ふん。自分が得意の相撲で負けたからと言って、八つ当たりをするでないわ」
見えない火花を散らして緑色の生き物と長鼻が睨み合う。
自分の目の前でいがみ合われ、若者は困り顔だ。心許ない視線を青年に向ける。
「桃…」
「何だ」
名を呼ばれた青年は大股で若者に近寄った。
未だ記憶は戻らずとも、この若者が自身にとって大切な存在である事は間違いない。
そう青年は確信する。
「この二人、仲が悪いのかな」
「知らん。俺は二人と勝負したようだが、覚えていない」
きっぱり言い切る青年へ、若者は「そうだよね」と苦笑した。
すると下の方からも、笑う気配が伝わってきた。