創作
□鋪之章 桃ノ段
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「ふふ…本当に変わらない。あの二人と勝負した時も、あなたはそのままだったわ」
七つになるかならないかといった、幼い少女。
おかっぱに切り揃えた黒い髪が白い肌によく映える。
「君は…おら達が記憶を失った理由を、知っているんだね」
目覚めた時から若者の傍にいた少女。
彼女は知り合いに頼まれたから助けたのだと言っていた。
――それは嘘であると、若者は朧ながらに気が付いた。
少女が自身に向ける瞳は温かく、それは只の知り合いに向ける温度では無い。
どうして忘れてしまったのだろうと若者は歯噛みする。
「おい…」
俯いてしまった若者を心配し、青年が細い肩に手を置いた。
「…ごめん、大丈夫」
眉根を寄せた青年に、若者は微笑みを返す。青年にはいつも笑っていて欲しいと、漠然と思ったから。
若者は努めて明るい顔で少女に尋ねた。
「ねえ、桃はあの二人とどんな勝負をしたんだい?」
「それなら、あちら。あの二人が話しているわ。耳を傾けて、聞いてみて」
鈴を転がしたような声で少女が笑う。
二人は促されるまま緑と赤に注目した。