創作
□叙之章 浦島ノ段
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「 、桃」
女の子だ。
そうだ、赤い少女は、あの女の子だったんだ。
見覚えがあるはずだ。だって、あれはおらが施した縫い目だったのだから。
桃が吠え、風が唸る。
緊張の糸は弾き飛ばされ、場には轟音が吹き荒れた。おらはたまらず目を瞑り、玉手箱を胸に掻き抱く。
「も…」
暴れる風に翻弄されて、息をする事すら難しい。
おらを背に庇った桃が叫ぶと同時に、空から降って湧いた闖入者が大きく右手を振るった。
そして発生した大風は、たやすくおらの身体を宙へ招く。
「わ、あ、ああ」
見上げてばかりだった桃の顔だが、今は足の先にある。たまらず声を漏らせば桃がこちらを振り返った。
「な」
なぜ、と言いたかったのか、桃はあんぐりと口を開けておらを見上げた。
ごめん、おらも自身の状況がよく分かっていなくて。いや、分かりたくないと言う方が正しいのかも。ああ、ごめん、どうか、
「も、も」
助けて。
発した声は風になり、おら共々高く空へと舞い上がった。