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□最後から始まる夢、現
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 俺がいないって、みんなもう気付いているかな?
 バタークッキーを齧って西の空を眺める。
 魔界とは大違いの青空には、白い雲が泳いでいた。

 風に撫でられ、木々の葉が扇のように揺れている。
 さやさやと梢が奏でる音を背景に、道行く人々の話し声が耳に届いた。

 巡礼に訪れた旅人達へと設けられた、簡素な東屋。その下から窺うダアトの空は、もう間もなく橙色に染まるだろう。

 ベンチに座ったまま足を組み直せば、首から下がる黒褐色の石が服の上を滑った。

 ユリアシティで目を覚ました翌日、俺は外殻へと戻ってきていた。
 しかも先に戻る事を仲間達に告げないで。

 ぶっちゃけ、再会した時が怖い。

「・・・なるようになれ・・・」

 咀嚼する度、口の中でクッキーがほろほろと崩れ、甘さが舌に絡む。ダアト名物と銘打たれたこのクッキー、確かに美味い。味もココア、アーモンド、チーズ等と豊富なうえ、7枚入りで120ガルドとお手頃な価格設定だ。実に美味い。レシピ監修はアニスか?

「って、いや、何考えてんだ俺・・・」

 どうも腹が減っていると思考が食べ物の方にいっちまう。
 背負った任の重要性を思い出し、目深に被ったフードの下で頭を振った



 搬送業務に就いて間もなく、テオドーロ市長の使いだという人に声を掛けられた。

 何でも市長が呼んでいるとかで、俺を探していたらしい。
 市長を待たせる訳にもいかず、同じ持ち場に就いていた神託の盾兵に断りを入れて、会議室へと足早に向かった。


「来たか、ルーク」

 再び訪れた会議室ではやはり人払いがされており、市長と俺と、一対一で話が始められる。

「早速ですまない。先程の話だが、幾つか確認しておきたい点がある」

 着席を勧められ、手近な椅子に腰を下ろす。
 市長はいつもの席に掛け、机の上で掌を組んだ。眉は僅かに顰められ、整理しきれない感情が胸の奥に窺える。

「何でしょうか?」

 先程の話とは、師匠が立てたオリジナルとレプリカ総入れ替え計画の事についてだ。

 自身の体験談としてではなく、あくまでも人伝に聞きましたという口調で、俺は過去の出来事を市長に語って聞かせた。

 要点だけをかいつまんでというか、ざっくりというか・・・大まかに話す事を心がけたつもりだが、どうしたって長くなる。
 ジェイドが語っていたような専門的な理論、そういうのが頭の中から消えかけていた事もあり、半年に及ぶ経緯を説明するのはとかく骨が折れた。

 まあ、おかげで市長には「師匠がうっかり漏らしていた事を断片的に覚えていました、俺」的に受け取られたようだから、かえって狙い通りとも言えるけど。


 協力してもらうためにも疑念やらは潰しておきたい。
 市長が口にした疑問や確認に、俺は一つ一つ応えていった。
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