短編@

□吐き出す怪奇音
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さっきから隣で発せられる奇声についに耐えきれなくなり、俺は仕事をしている手を止めた。



「…おい、笠原」

「はい…痛ッ!あー…しまった」

「……」



何やってんだ、と聞こうと思って後ろを振り向くと、そこには雑巾とにらめっこしている笠原の姿があった。



「お前、…」

「あ、っと…これはですね…」



説明しながらも手を動かそうとしているが、その手の動きはぎこちなくて見ていられなかった。



「…何で雑巾をお前が縫ってるんだ?」

「これは、その…子どもに『郁ちゃんは裁縫できないよね!』って言われて…」

「その通りじゃないか」

「ちょ!酷くないですか!?」

「確かにそれを見る限りでは…ククッ、上手いとは言えないよね…クッ」

「こッ、小牧教官笑いながら言わないで下さい!」

「で、そいつらに自分はできるという事をわからせる為に縫ってるのか」

「はい…」



そこでうなだれる。

どうやら落ち込んでいるようだ。
そんな事で落ち込むなら最初からしなければいいのにと思うのだが、どうやらコイツにはその選択肢がないらしい。



「だいたいお前、仕事はどうしたんだ?」

「それはさっき終わらせました!」



見て下さい!と満面の笑みで書類を渡してきた。



「………」

「どうかしましたか…?」

「…お前、」



それだけ早く仕事が片付くのなら毎日そのスピードでやれ!と怒鳴りたくなるのを必死で押さえる。

コイツは良くも悪くもこういうヤツなんだ。

諦めて溜め息をつくと、笠原は心配そうに俺の顔を覗きこんできた。

…お前が心配そうな顔をするな。その言葉を飲み込んでから俺は言った。



「慣れないことをすると危ないぞ」

「ちょ!それ私に酷くないですか!?」



そういえばさっきも同じような事を言われたなと苦笑する。



「さっき針、指に刺してただろ」

「それは…ッ、教官が急に呼んだからです!!」



憤然とまくしたてようとする笠原を止めながら今だにほとんど進んでいない雑巾を取り上げる。



「ちょ、何するんですか!?」

「お前…本当に止めといた方がいいぞこれは」



雑巾は酷い有様になっていた。
反論する余地もないと思ったのだろう、小さく「スミマセン…」と呟いた。



「ねぇ笠原さん、どうせならミシンでやってみたら?」



そう発言した小牧を睨む。



「こいつにミシン!?余りにも無茶じゃないかそれ!」

「成る程、ミシンですか…それなら早く済みそうですよね!」



話が噛み合っていないが此処で退くわけにもいかない。



「大体ミシンなんて物がここにあるのか!?」



そう突っ込む俺を小牧はにっこりと笑って突き落とした。



「後方支援部」



その一言で笠原は「借りて来ます!」とか言って走っていった。



「待て!笠原!!」



叫んでみるも、全くきにしずに走っていく。



「あいつ…」



大体借りてくるってどこにミシンを置く気だ。



「ま、頑張ってよ班長さん」



そう言って肩に手を置く小牧を睨んだ。
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