短編B
□君を想う季節
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寒い季節とは、すなわち人肌恋しい季節だと思う。
そう彼に伝えると、彼は「そうだな」と頷いた。
「それにしても、お前がそんなことを考えるなんてな」
「…どういう意味ですか」
「お前は寒いときでも元気で体温も高いからな。人肌恋しいとか感じるとは思ってなかった」
「酷いっ!!」
彼は笑いながら私の髪を手で梳かす。
気持ち良くて、思わず目を細めて彼にもたれかかると、彼は優しい声でこちらに問いかける。
「眠いのか、郁?」
「んー…ちょっと」
「寝てもいいぞ」
「でもこうしていたい…」
「……」
一瞬彼の手がとまる。
どうしたのかと目を向けると、彼は即座にそっぽを向いた。
「篤さん?」
「何でもない。気にするな」
そう言ってまた髪を梳かし始める。
なぜ手がとまったのかは気になるけれど、気にするなと言われたし…まぁいっか。
それより、本格的に眠くなってきた。
瞼が自然におちる。
彼の温もりと優しさに包まれつつ、意識を手放した。
〔君を想う季節〕
(人肌恋しい…か。人肌と言っても、俺はお前しかいらんが、な)
御題元・Silence