短編B

□何処までも飛び越えて
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篤さんと会えなくなって、もう二週間近く経った。
今、篤さんは小牧教官と一緒に地方の図書館へ視察に行っている。



「もう二週間か…」



これまでほぼ毎日共に働き共に本を守ってきた上官兼恋人と、こんなに長く離れたのは今回が初めて。
だからこそ、我慢していた。
貴方がいなくても、私はちゃんと仕事出来るようになったと主張するために。
帰ってきたときに良い報告が出来るように。
精一杯、かっこつけて彼を送り出し、そして耐えてきた。
けれど、それももう限界だった。



「会いたいよ、篤さん…」



篤さんが居ない間、幾度となく写真を見た。
けれど、結局心は満たされなかった。
私が求めているのは視覚の情報だけじゃない。
彼の匂いを、彼の温もりを、彼の全てを、求めているのだ。
五感全てを使って、彼を感じたい。

会えないまでも、せめて声が聞きたい。
そう思って携帯を手に取った。
篤さんの名前をディスプレイに表示する。
あと一個ボタンを押せば彼の携帯にかかる…そんなとき。



「わあっ!」



ディスプレイが変わり、軽快な音楽が鳴り始めた。
…この曲は、彼専用の曲。



「は、はいっ…!」



ボタンを押して、声を発する。
うわずったのが面白かったのだろう、電話の向こうで笑いを飲み込む音が聞こえた。



「…何笑ってるんですか」

「すまん。…郁、」

「なんですか」

「会いたい」



〔何処までも飛び越えて〕



(2人の想いは繋がる)

御題元・Silence

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