短編・御礼
□シロツメクサ
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『今日、仕事終わったら会えへん?』
伸さんからメールが来たのは、ちょうど私が昼御飯から帰ってきたところだった。
『いいですよ。何処に待ち合わせですか?』
『そうやなぁ…俺らが最初に会うたところは?』
『分かりました。楽しみにしてます』
短いメールのやり取り。
それでも、私の気分は最高潮にまで上がった。
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普段より仕事の量が多かったが、なんとか定時に終わった。
会社を出ると、空はすっかり暗くなっている。
ふと顔を上げると、そこにはいつもより少しだけ明るい月が浮かんでいた。
待ち合わせ場所に行くまでに、少し寄り道をしてみる。
比較的緑の多い公園だ。
「最近外に出れんかったからな…」
誰も居ないのを良いことに、ぼそりと呟く。
明るい月のお陰かどうかは分からないが、ブランコの傍にあるシロツメクサが一層際立って見える。
「ひとみは、シロツメクサみたいやな」
小さい花びらがいくつも重なりあい、どこまでも真っ白。
それなのに、簡単には折れず、芯が強い。
「…さて、そろそろ行くか」
いつか、天気の良い日に2人でここに来たい。
静かで緑も多い。
なにより、今日シロツメクサを見て思ったことを話したい。
一体、ひとみはどんな表情をするのか。
「うわ、思った以上に時間経っとう!」
ささやかな約束だけれど、俺にとってはかなり重要。
なにしろひとみ不足やから。
鞄を掴んで待ち合わせ場所へと走り出した。
シロツメクサ
月夜の晩に会いましょう
君と結んだ小さな約束