短編・御礼

□バラ
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「光」



そう言って俺の手をそっと握るのは、甘えたいという合図。



「どうした?」

「んー、ちょっと疲れた」

「そうか」

「甘い物が食べたい」

「コンビニ行くか?」

「うん」



珍しく素直な彼女の手を握ったまま玄関に向かう。

財布がポケットに入っていることを確認して、鍵を手に取った。



「鍵閉めるから先に出…」

「ちょっと待って」



麻子がそう言ったのでそのままの体勢で止まると、彼女は唇を重ねてきた。



「……」

「何か言ってよ」

「本当に何があった?」

「別にー」



本人は平気な顔をしているが、内心かなりキているのだろう。

握っていた手を離し、彼女を腕の中におさめる。



「…俺は鈍いらしいから、言わないと分からないぞ」

「うん、…でもいいや」

「ん?」

「自分で解決しなきゃいけないのよ、この問題は」

「……」



彼女を支えたいと思うのは、
彼女を守りたいと思うのは、
駄目なのだろうか。



「ありがと、光」

「何が」

「まぁ色々と?」

「なんで疑問系なんだよ!」



なんか、どうでも良くなった。
俺の好きなようにすればいいだけ。

顔を背けると、いけてあるバラが目に入った。



『美しいものには刺がある』



彼女がこの花を見てそう言ったのを思い出した。
まるで、自分もそうだというように。



+++



光に悪いことしちゃったかな。

彼の腕の中でそう思った。

少し傷ついた、それだけのことなのに。
彼の優しさにすがりつく自分が嫌になる。



『…俺は鈍いらしいから、言わないと分からないぞ』



そう言ったわりには、私が一番望んでいることをする彼。

手を繋いで。抱きしめて。
自分では言えない事を、彼は何事もないように実行する。
まるで、私の想いを知っているように。

あぁ、…私は彼に弱い。



バラ



私の心を知っているのは
この世界では貴方だけ
 

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