短編・御礼

□チューリップ
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「悦子ー見てみ、めっちゃ綺麗やで!」



そう呼んだのは、私の彼氏。
私達は今、チューリップがたくさん咲くことで有名な公園に来ている。

見渡す限りのチューリップ。
遠くから見ればどれも同じような色をしているが、近づけばそれぞれ少しずつ違っていることが分かる。

その中のひとつを指差しながら言った。



「これ、悦子みたい」

「ん、どれが?」

「これ」



色は赤よりのオレンジといった所だろうか。
その一本は気持ちよさそうに風に揺られている。



「ふーん…何で?」

「何となく?悦子っぽいかなって」



そう言って笑う彼は、どこか幸せそうで。
私もつられて笑う。



「でもさ、本当にたくさんあるね。どれくらいの数があるんかな?」

「ざっと見ぃ、1000本はあるやろな」



その中からたった一本を選び、私に似ていると言った彼。
それは、駅前で無数にすれ違う人々の中から私を選んでくれたことを彷彿させた。



「…ありがとう」

「え、何が?」

「んー…内緒」

「なんやそりゃ」



また笑う彼。
私も笑う。

彼と一緒にいれば、ずっと笑っていられそうだ。



「…さ、そろそろ行くか」

「うん。次はどこ行くん?」

「あんま考えてない」

「…まじで?」

「まじや」



そう言いつつも私の手を引っ張る彼に気付かれないよう言葉を落とす。



「私を見つけてくれてありがとう」



チューリップ



多様な色彩の中から一つ
永遠の愛をここに誓う
 

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