短編・御礼

□ユリ
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家のドアを開けると、強い香りに包まれた。



「お帰りなさい、夏木さん!」

「ただいま。これは?」

「お隣さんから貰ったの」



ああ、と納得。

お隣の老夫婦はガーデニングが趣味らしく、どの季節も色とりどりの花を庭に咲かせている。
望はお隣さんと仲が良く、ときどきこのように花をお裾分けして貰っている。

今回は、ユリの花。
透き通るように白い花びらに、愛情を込めて育てられたことを感じた。



「ユリってさ、何か高貴な感じがするよな」

「確か、フランス国王の紋章がユリだったはずだよ」

「そうなのか」

「ちょっと自信ないけど…」



そう言って苦笑する望の左手、薬指には結婚指輪がはめられている。

俺の視線に気がついた望が首を傾げた。



「…?」

「なんかさ、俺ら本当に結婚したんだと思って」



何をいまさら、そう言って笑われるかと思ったが、望の反応は違った。



「ちょっ…!?」

「…うん、結婚したの。私たち」



そう言って俺の胸に顔を埋める望は凶悪的に可愛かった。



「ね、夏木さん」

「ん?」

「お願いだから、これから先も私にだけは嘘つかないでね」

「…は?急にどうした?」

「なんとなく言っておきたかっただけ」

「俺、そういう事苦手だからしないと思うが」

「知ってるよ、」



ユリ



あなたは私をだませない
高貴な風とともに歩む
 

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