短編・御礼
□たんぽぽ
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正直に言おう。
俺は今、とてつもなく苛ついている。
とある利用者がトラブルを起こした。
おおごとにするようなものではない程度だったので、近くの業務部と今日のペアだった小牧とで片付けた。
…想定外だったのは、トラブルを起こした人が20代の若い女性で、俺に一目惚れした、ということ。
それから一時間が経った今も、その人に後をつけられている。
「笠原と手塚は?」
「庭で子供の相手してる。どうする、早めに切り上げさせて貰って昼食にする?」
「…悪い」
その言葉で小牧は頷き、無線に連絡を入れる。
「ちょっと早いけど昼休憩に入るよ」
「「了解」」
そのまま2人で庭に向かう。
その後を一定間隔あけてついてくるその人に頭を悩ます。
苛々した気持ちをどうする事も出来ないまま、ひたすら歩いた。
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庭では、子供たちが図鑑と植物を代わる代わる見つめていた。
目当ての姿がないので見渡すと、黄色い一角が目に入った。
たんぽぽ。
幾重にも重なる黄色い花びら。
何度踏まれても立ち上がり、ひたすら真っ直ぐに成長する。
そのたんぽぽの群れの中で一人佇む彼女。
「郁?」
「あ、篤さん」
そう言って振り向いた郁は、本当に嬉しそうで。
ささくれだった気持ちが少し落ち着く。
「何かあったんですか」
手塚に話しかけられる。
何と答えようか迷っていると、「はいはい、邪魔しないー」と小牧に引っ張られていった。
普段は引き止めるが、今日は小牧の気遣いに甘えることにした。
「大丈夫ですか…?」
「ん?…あぁ」
「大丈夫じゃなさそうですけど」
心配そうな表情をしている彼女。
思わず頭を撫でた。
「え、」
「もう大丈夫だ。お前をみたら、」
元気がでた。
その言葉を聞いて顔を赤らめた郁に微笑む。
苛立った気持ちなど、もうどこかにいった。
下を見ると、たんぽぽがこっちを見ているようで。
何だかくすぐったい気持ちになる。
たんぽぽ
純粋な太陽のほほえみは
心の内に灯りをともす