短編・御礼
□君だけに『愛してる』
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やっと仕事が終わり、急いで準備をする。
一週間前から服を選んでいたためそこまで時間はかからなかった。
少し余裕を持って待ち合わせ場所に行くと、そこにはすでに篤さんがいた。
「篤さん、」
「改めて…誕生日おめでとう」
「ありがとうございます」
相変わらず、なぜか仏頂面。
思わず言ってしまう。
「あの、私何かしでかしました?」
「…は?」
「だって、昨日誘ってくださったときも顔がこわかったし、今も、」
「すまん、それはお前のせいじゃない。…行こう」
そう言って手を差し出されたときには、もういつもの柔らかい表情をした篤さんに戻っていた。
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「ご馳走様でした。美味しかったー!」
「それはよかった」
「でも流石に2人でワンホールはきつかったですね」
「そうだな。…郁、」
ホテルの部屋でくつろぎながら言うと、急に名前を呼ばれた。
顔をあげると、篤さんの手に。
「…バラ?」
「……愛してる。ずっと、」
「篤さ、ん…」
その手には、バラが溢れていた。
その声には、想いがつまっていた。
そして、その顔には。
「顔、真っ赤…」
「…っ、お前だけを、愛してる」
耳まで真っ赤になりつつも、言葉を紡ぐ篤さん。
その言葉は、すとんと私の中に入った。
「篤さん」
「……」
「私、篤さんと誕生日を一緒に過ごせるだけで幸せなのに、こんなに…こんなに貰って…」
「なんで泣くんだ」
「だっ…て、…」
篤さんが、普段なら絶対にしないことをしてくれたから。
私のために。
いとおしい。
その言葉が頭に浮かぶ。
それと同時に、篤さんの胸に、バラに、飛び込んだ。
〔君だけに『愛してる』〕
後日、バラの花束から可愛らしいネックレスが見つかったのはまた別のお話で。
御題元・Silence
→あとがき