短編・御礼
□3月
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ペラリ、とページをめくる手は大きい。
その手を見つめていると、愛しい彼の声が聴こえた。
「あ、見つけた」
彼の指の先には、高校の制服に身を包んだ自分の姿があった。
まだ化粧もしていない自分は、酷く幼く見える。
耐え切れずに自分の手でその写真を隠した。
「恥ずかしいから見ないで」
「なんで?このときも可愛いのに」
彼の言葉に俯く。
このとき『も』と何のことなく言ってしまう彼の言葉のセンスに、私はこの人が好きなんだと改めて思わされた。
というか、
「私も幹久さんの卒アルが見たい」
「俺の?」
「うん。私のだけ見るなんて不公平」
「仕方ないなあ」
すっと差し出された手を取る。
「じゃあ俺の家行くついでに軽く散歩でもしようか」
「うん」
「まだ寒いと思うからちゃんと上着羽織ってね」
そういわれて手を離された。
それが惜しい、ずっと繋いでいたい。
私の様子に気づいた彼は苦笑気味に呟いた。
「―――――」
「え、なんて?聞こえない」
「ううん、なんでもない」
さ、早く羽織ってよ、と上着を着せられる。
「じゃあ行こうか。…そんな目をしても、今は手をつなげないからね」
「えー」
「今からご両親の前を通るのにそんなことできないから」
「……」
黙り込んだ私の背中を押して部屋から出る。
「お邪魔しました」
「あら、もう行くの?」
「少し散歩に、」
「いってらっしゃい、気を付けてね」
お母さんの声を背中に聞きながら靴を履く。
彼が玄関のドアを開けると、暖かそうな日差しが降り注いでいた。
外に出てドアを閉めると、まだ肌寒い風が吹いた。
首をすくめると、温かな手がギュッと私の手を包む。
〔卒業写真〕
((それだけで、幸せ))