短編・御礼

□3月
1ページ/1ページ


ペラリ、とページをめくる手は大きい。
その手を見つめていると、愛しい彼の声が聴こえた。



「あ、見つけた」



彼の指の先には、高校の制服に身を包んだ自分の姿があった。
まだ化粧もしていない自分は、酷く幼く見える。
耐え切れずに自分の手でその写真を隠した。



「恥ずかしいから見ないで」

「なんで?このときも可愛いのに」



彼の言葉に俯く。
このとき『も』と何のことなく言ってしまう彼の言葉のセンスに、私はこの人が好きなんだと改めて思わされた。
というか、



「私も幹久さんの卒アルが見たい」

「俺の?」

「うん。私のだけ見るなんて不公平」

「仕方ないなあ」



すっと差し出された手を取る。



「じゃあ俺の家行くついでに軽く散歩でもしようか」

「うん」

「まだ寒いと思うからちゃんと上着羽織ってね」



そういわれて手を離された。
それが惜しい、ずっと繋いでいたい。
私の様子に気づいた彼は苦笑気味に呟いた。



「―――――」

「え、なんて?聞こえない」

「ううん、なんでもない」



さ、早く羽織ってよ、と上着を着せられる。



「じゃあ行こうか。…そんな目をしても、今は手をつなげないからね」

「えー」

「今からご両親の前を通るのにそんなことできないから」

「……」



黙り込んだ私の背中を押して部屋から出る。



「お邪魔しました」

「あら、もう行くの?」

「少し散歩に、」

「いってらっしゃい、気を付けてね」



お母さんの声を背中に聞きながら靴を履く。
彼が玄関のドアを開けると、暖かそうな日差しが降り注いでいた。
外に出てドアを閉めると、まだ肌寒い風が吹いた。
首をすくめると、温かな手がギュッと私の手を包む。



〔卒業写真〕



((それだけで、幸せ))

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ