短編・御礼

□4月
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「だいぶ春っぽくなってきたな」

「ですね。これでやっとコートが仕舞えます」

「お前…」

「なんですか?」

「…なんでもない」



黙り込んだ夫をみて、何か変なことを言ったのかと首をかしげる。
その様子に彼は苦笑し、それから私のきている服を指さして言った。



「その色。よく似合ってる」



淡い、本当に淡いピンク色。
これくらい薄ければ自分にも着れるかな、と悩んだ末に買った服。
褒められて、素直に嬉しかった。



「ありがとうございます」



そういって笑ったら、彼はそっぽを向いた。



「え、何で!?」

「お前がそうやって反則級の笑顔を見せるからだろ!」

「ええ――っ!?」



怒られてるのか褒められてるのかわからないのでそのまま黙り込む。
彼はこっちを向いてそれから私の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。



「え?え!?」

「頭に桜の花びらがついてた」

「あ、ありがとうございます…?」



疑問形になったのは花弁がついていたら頭を撫でるのかと思ったからで。
それに気が付いた彼は再びそっぽを向いて、「察しろ」と言った。
また訳がわからなくて首をかしげる。
今度こそ盛大なため息をついて、周りを見渡して、それから。



〔さくら色〕



(…郁、お前顔真っ赤)(篤さんがこんなところで急にそんなことするから…!)(桜並木で桜色の服着て、頬も桜色だなんて、なかなか粋じゃないか)(…もうっ!)

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