短編・御礼
□7月
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セミが大合唱する中、訓練を終えて戻ってきた郁が叫んだ。
「暑いーッ!暑い暑い…暑いッ!!」
「笠原さん、暑いって言うともっと暑くなるって知ってた?」
いつの間にか隣に立っていた小牧の言葉に驚く。
「え、そうなんですか!?じゃあ…寒いー!」
「お前、頭大丈夫か?この暑さで頭やられたんじゃ…」
「はぁッ!?」
さっきの小牧の発言を聞いていなかったであろう手塚に口を挟まれた。
郁は憤慨して言い返そうとするが、言うことが思い浮かばない。暑さのせいで本当に自分の頭はおかしくなってしまったのではないだろうか。
そんなあほらしいことを考えつつ小牧を見ると、小牧は郁と手塚を楽しそうに見ていた。
「…小牧教官って、いつも楽しそうですよね」
「そうかな?」
「それに涼しげだし!」
「いや、汗はかいてるよ」
「私なんか全身汗だらけですよ」
「お前は無駄に代謝がいいんだろ」
「無駄にとか言うな!」
「はい、そこでストップー。夏の喧嘩ほど暑苦しいものはないからねー」
小牧に止められたところで堂上がきた。
「何してんだお前ら」
「笠原さんと手塚の喧嘩を止めてた」
「喧嘩?」
「喧嘩というほどの物じゃないですけど…手塚のせいです」
「は?お前が変なこというからだろ!」
「何ですって!?」
「はいはい、その辺にしといてねー」
またもや止められる。
アイツは絶対に許さない、と心の中で叫んだ。
にしても、さっきから堂上が黙っているのが気になる。
「堂上教官?」
「……」
「…篤さん」
「ッ!?」
「どうしたんですか?」
「いや、何でもない。気にするな」
「絶対何かありますよね」
「……」
暫く私を見てから諦めたように溜め息をはく。
そして耳元で囁かれたのは、
「手塚とあまりにも仲が良さそうにしてたから、な」
「…!」
急に囁かれて、しかもその言葉が甘かったから、一瞬で赤くなる。
それを見た小牧は一言。
「夏の喧嘩ほど暑苦しいものはないって言ったけど、訂正するよ」
〔誰に何と言われても〕
(夏のバカップルほど暑苦しいものはないね)(!?)((それでもいちゃつきたいと思うのは仕方ないことだろ))