短編・御礼

□10月
1ページ/1ページ

10月ときけばまず初めに思い浮かぶのはハロウィンではないだろうか。
図書館も勿論ハロウィンに関する企画を取り入れている。
というか、現在その準備をしている最中なのだ。
昔は折り紙や画用紙をつかって業務部をはじめとする館員が総出で飾り物を作っていたのだが、いまや100均という便利な店ができたため、時間がないときなどはそっちに逃げたりもしている。



「うわぁ、これ可愛い…!」



そう声をあげたのはさっきまで隣を歩いていたはずの郁だった。
いつのまにかずいぶん後ろを歩いている。
そういや彼女、100均に足を踏み入れたときから目を輝かせていた。



(女子ってなんでこうも選ぶのに時間がかかるんだろうな…)



彼女から目を離さずにぼんやりと思う。
口に出すと怒られそうなので言わないが。



「おい、俺達は仕事で来ていることを忘れるなよ…」



そう声をかけても郁は全く聞いていないようで、次から次へと商品を手にとっては楽しそうにみつめていた。
はぁ…とため息が漏れる。
手元のメモを見ると、そこにはやわらかいながら整っている字が並んでいる。
さすが小牧というか、字だけで彼の人柄がよくわかる。

本当は堂上班に出された命令(という名のパシリ)だったのだが、いざ買いにいくというときになって館内で軽いトラブルがあり、二人で行くはめになったのだった。

「こういう飾り物は女の人のほうが向いてるしね。まぁ楽しんできてよ」

ご丁寧にそんな言葉をつけて送り出した小牧と、渋面で「気をつけて」と言っていた手塚。
仕事なのに楽しめるか、あのアホゥが。
しかし。
子供のようにあどけない笑顔を浮かべる彼女を見ていると、こちらまでうれしくなってしまう。
なんだかんだいって楽しんでいるのだ、自分も。



〔子供のように無邪気に〕



((笑う君は、やはり可愛かった))

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ