短編・御礼

□11月
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「寒い」



突然そんなことを言うから隣を歩く彼女に目を向ける。
彼女はじっとこっちを見ていた。

(こういうときは…)

右手をそっと握る。
彼女は満足げに微笑んだ。
まるで合格、とでも言うように。

(ほんとこいつにはいろいろと教わったな)

こんなに寒い日になぜミニスカートをはくのか。
薄着をするのか。
はじめはそんなことさえ分からなかった。
けれど今なら分かる。

『かわいい』といわれたいのだ。
たぶん、俺に。
…ここで多分とくるのが情けないが。



「…何よ」



そんなことを考えていると、どうやら無意識に彼女を見つめていたらしい。
照れるわけでもなく訝しげにこちらを見てくる彼女。
その表情が、その唇が、なんというか、生意気で。



「なぁ、お前がそういう格好するのって、俺に―――…」



そこまで言ってからやってしまった、と心の中で呟いた。
俺はこいつ相手になんてことを…。

そして彼女は、俺が途中でとめた言葉を正確に理解したらしい。



「はぁ?バカじゃないの、なんでアンタに…!」



案の定ぼろくそに貶される。
が、言葉は全く刺さらない。

まだ何かしら暴言を吐いているその唇を、周りを気にしつつ塞いだ。



〔生意気な唇〕



(なっ…!)(そんな赤い顔で言われたら、誰だって照れ隠しだってわかる)(…バカ)

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