短編・御礼

□12月
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「はぁ…」



今日も今日とてわれらが班長は重いため息をつく。
「どうしたの?」なんて野暮なことはきかない。
理由なんてわかりきっている。



「まぁこればっかりは仕方ないよ。ね、手塚」

「は、はぁ」



しまった、手塚にふるんじゃなかった。
そうは思ってももう遅く、戸惑いの色を隠しきれていない返事がかえってきた。




「仕方ない、つっても…多すぎんか」

「あそこまで可愛くしたのはどこの誰だと思ってんの」

「うっ…」

「しかも時期が時期だし」

「……」



彼が毎日重いため息をついている理由。
それは、堂上班の紅一点、笠原郁。
堂上と付き合っていることを知らない男性客が、次から次へと彼女におしかけていくのだ。
“クリスマス前は告白が成功しやすい”なんて噂を信じている輩もいるらしく、この時期は普段より2割増の人が押しかけていた。
彼女からすればはた迷惑なだけであり、堂上への愛はゆらぎないものであるし、それは堂上も分かっている。
ただ、ため息をついてしまうのは不可抗力なのだ。



「どうしたもんかな…」

「笠原さんに服をもう少しなんとかしてもらったら?」

「いや、スーツだろありゃ」

「今はそうだけど、業務後の私服とかさ。館員でも狙ってるやつ多いんだろ?」

「…もう言った」



予想外の返事にばっと堂上のほうを向くと、堂上も同時に顔をそむけた。
しかし、赤くなった耳までは隠しきれていない。



「…おおかた笠原さんのことだから『せっかく篤さんの隣を歩けるのにおしゃれしないとか嫌です!』みたいなこと言われたんだろ」

「……」



無言は肯定の証だ。
こっちがため息をつきたくなった。



〔綺麗になったあの子〕



(おあついようで何よりだよ)(黙れ小牧)((俺はここに居ていいのか…?))

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