短編・御礼
□周りに人がいないことを確認しましょう
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はじめは危なっかしくて目が離せなかった。
それなのに、今。
入社から3か月経ち、仕事にも慣れてきた彼女を、未だに目で追ってしまう自分がいる。
理由なんて、もうわかっている。
伊達に二十数年生きてきた訳ではない。
何度もこの気持ちを抑えようとした。
けれど。
「堂上教官、玄田隊長が呼んでますよ」
「わかった、すぐ行く」
ほら、今だって。
ただ苗字を呼ばれただけなのに心臓が早鐘を打つ。
もう抑えるのは無理だろう。
…それなら。
男なら、玉砕覚悟で行くしかないだろう!
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仕事が終わり、彼女と一緒に玄関まで向かう。
いつもならここで挨拶をして別れるのだが、今日は違う。
「笠原」
「はい?」
「……」
「どうしましたか?」
顔を覗き込んでくる彼女。
その瞳はどこまでも真っ直ぐで。
気がつけば言葉が出ていた。