短編・御礼
□アナタは私の敵ですか?
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「おかしいな…」
小牧が隣で呟く。
「何がだ?」
「見て、これ」
手渡されたのは何かの資料らしかった。
パラパラ、と数枚めくる。
「…確かにおかしいな」
「だろ?あんまり考えたくないんだけどさ、」
「スパイか」
「多分。どうする?」
「この件は保留にしてくれ。…カマかける」
「堂上、」
「大丈夫だ。心配するな」
俺は班長だからな。
そう言うと、小牧は不服そうな顔だったがうなずいた。
+++
「郁、帰るぞ」
「あ、はい!」
タタタ、と駆け寄ってくる彼女を見る。
さっき小牧に渡された資料。
それは、最近の俺たちの捕り物に関するものだった。
今年の4月から、捕獲率が急激に下がっている。
それも、ある一つのグループだけ。
それが、何を意味するのか。
二人きりで外に出る。
今回は前回のように誰かに聞かれるような事があってはならない。
気配をさぐり、誰もいないことを確認する。
そして、一言。
「お前は、俺の敵なのか?」
+++
ばれた、そう思った。
けれど何も言えなかった。
なぜなら、その言葉を吐いた彼がとても辛そうな顔をしていたから。
その瞳は、私に違うと言ってくれと言っているように見えたから。
本来なら、スパイだとばれた瞬間、自殺しなければならない。
それは、相手にこちら側の情報をいっさい与えないためだ。
けれど、今の私にそんな考えは浮かんでこなくて。
だから、こう言った。
〔アナタは私の敵ですか?〕
(全て、お話しします)