短編・御礼
□痕は消えない
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全てを話すと、彼は険しい顔のまま言った。
「…で、お前はどうしたい?」
「私は、…」
出来ることなら、あなたの傍で、あなた側の人間として、働きたい。
そう無理な願いを吐き出す。
「…二重スパイ」
「……」
「それが出来なければ、お前はもうこちら側の人間として認められん。だが、二重スパイはきつい、肉体的にも、精神的にも。それでも、」
やるのか、お前は?
二重スパイ。
私にそんなことが出来るのか。
そんなの無理だ。
きっと彼もそれが分かっている。
…けれど、それでも彼は私にやれと言っているのだ。
それならば、
「やります」
「本気か?」
「はい。…失った信用は、自分で取り戻します」
不可能を可能にしてみせます。
だから、見といてください。
心の中で呟くと、私の思いが通じたように彼は言った。
〔痕は消えない〕
(見せてみろ、裏切りという名の痕を覆すほどのなにかを)