短編・御礼

□ある意味、それは最高のハッピーエンド
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「…頼むから、そんなに泣くな」



弱りきった声が出る。
何しろ、好きな女が目の前で20分近く泣いているのだから。



「うぅ…だって…」



そういってまた鼻をかむ彼女。
いったいその細い身体のどこにそんな大量の水分が蓄められていたのだろう。
そんな馬鹿な考えが頭をよぎった。



+++



あの日、『撃て』という言葉のあとに響いた銃声は進藤先輩の銃から発せられたものだった。
その直後彼女が膝から崩れ落ちたのを見て、思わず周りの制止をきかずに飛び出した。



「郁、」



名前を呼び彼女を抱えあげる。
撃たれた形跡はなく、どうやら極度の緊張状態から気を失っただけのようだ。

安心したのはつかの間、自分の右太股に違和感を感じる。
視線を落とすと、その先には、――――――赤。

今度は自分が崩れ落ちる。
床にぶつかる直前、小牧に掴まれた。
手塚は郁を運ぼうとしていた。

まわりを見れば、もう相手は全員捕まったらしかった。



「小牧、」

「お前ほんと馬鹿だろ。あんな状況で飛び出すとか」

「すまん」



素直に謝ると、彼はため息をついた。



+++



「結局怪我したのは俺だけだったし、相手の重役も全員逮捕できた。だから、もう泣くな」

「でも、でも、私があのとき、気を失わなければ、篤さんは撃たれなかったじゃ、ないですか!」

「個室といえど、ここは病院なんだからもう少し声落とせ」

「すみません…」

「でもまぁ、こうして2人とも生きてる。それだけで十分だろ」



〔ある意味、それは最高のハッピーエンド〕



(だから、いい加減泣き止め)(うー)((どうすりゃいいんだ…))

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