短編@
□絶対、誰にも
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俺と郁が付き合ってからまだ1ヶ月も経ってない頃―――つまり俺がまだ病院のベットの上から動けなかった頃―――小牧が訪ねてきた。
「調子はどう?」
「まあまあ、と言った所だ。そっちはどうなんだ?」
「コッチもまあまあだよ。…堂上にとって面白くない事があったことくらいかな?」
「…なにがあった」
「そんな怖い顔しないでよ、班長」
いつものクセでまた眉間に皺をよせていたらしい。
人差し指で軽くほぐしつつ「それで?」と促す。
「……笠原さんの事なんだけど、…ククッ…だから怖い顔しないでってさっき言ったじゃないか」
「…笠原がどうした」
自分でもあからさまに不機嫌な声を出している事は分かる。
けれど今はそれどころでない。
郁がどうしたんだ?
「正確には笠原さんが、というより笠原さんの周りが、なんだけど」
「だからどうした」
「そんなに急かすなって」
小牧にたしなめなれるが逸る気持ちはおさまらない。
視線で早く言えと促すと、ようやく小牧は口を開いた。
「笠原さんが最近さらに色っぽく可愛くなったっていう事が口コミで図書隊内で広まっててね、人気がさらに上昇中なんだよね。だから笠原さんを口説いてる奴らが増えてる。まぁ本人は全く気付いてないようだけど」
「……」
自分がいない間に。
怒りで拳をつくってしまう。
「…まぁ頑張って」
そう言って俺の肩に手をのせてから、小牧は帰った。
[絶対、誰にも]
((渡しはしない。郁は、俺のだ))