短編@
□笑顔でさよなら
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ついにこの日がきた。
着々と準備し、話し合いを重ねて、今日。
…私は結婚する。
ドアが叩かれる音が聞こえた。
光にしては控えめだ。
「どうぞ」
ドアを開けて入ってきたのは光の兄、手塚慧だった。
「さすが柴崎さん。よく似合ってるよ」
「それはどうも」
「素っ気ないな」
「緊張してますから」
「意外だね。柴崎さんなら緊張しないと思っていたが」
慧さんは笑いながら真正面に立った。
「君たち2人は幸せになるよ。あくまでも俺の予想だけれど」
「…ありがとうございます」
「じゃあ、俺はそろそろ行くとするよ」
そう言って慧さんは部屋を出ていった。
多分光をからかいに行ったのだろう。
改めて鏡の前に向き直る。
自分が一番似合うと思ったドレスは、装飾を控えめにした純白のドレス。
そのドレスに身を包んだ自分の姿を見て、気が付かないうちに笑っていた。
こんな幸せな結婚が出来るとは思ってもいなかった。
私がしてきた恋愛は、どれも幸せな思い出とは程遠かった。
光を好きになって、恋愛ってこんなに幸せなものだったと初めて知った。
またドアを叩く音。
今度こそ光だろう。
[笑顔でさよなら]
((さよなら、柴崎麻子。手塚麻子は幸せになるから))
御題元・Silence