短編@
□コントロール不能
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「ねぇ…どうするの?この状況」
「どうする、って聞かれてもな…」
小声でそう返した手塚に苦笑がこぼれる。
「お前…笑ってる場合じゃないだろ」
「だってさー…絶体絶命でしょ、この状況」
今、私と手塚は互いに背中を預けて良化隊員達と睨み合っている。
背中には今回相手が狙っている本が入った背納がある。
近くの図書館にこの本を届ける、あまり難易度の高い任務ではない――はずだった。
「堂上教官に連絡は?」
「この状況じゃきついだろ」
+++
堂上班が図書館の近くに車をとめ4人が車から降りようとした瞬間、良化隊のトラックが見えた。
堂上教官の指示がとぶ。
「近くに住宅があるからさすがに向こうも発砲できないはずだ。俺と小牧が囮になる。笠原と手塚はその隙に図書館へ駆け込め。いいな?」
「「了解」」
堂上教官と小牧教官は何も入っていない背納を背負って車の外へ走りだす。
少し経ってから手塚と車を降りる。
周りを見渡すが誰もいない。
「…そのままつっきるか」
「うん」
2人で走りだす。
図書館の入り口まであと50mくらいになったその矢先―――
「おい!いたぞ!!」
すぐに良化隊員達に囲まれた。
手塚に背中を預けて良化隊員達と睨み合う。
ざっと見て数十人。
つっきるのは無理だと判断した。
そして無言の睨み合いは続き、今に至る。
+++
沈黙を破ったのは向こうだった。
2、3人が私に向かって飛び掛かってくる。
そいつらの動きを見切りながら1人ずつ蹴りを食らわす。
3人目を凪ぎ払った瞬間、また別の隊員が飛び掛かってきた。
+++
『…ハッ、堂上…!』
『ハッ…ハッ…小牧、どうした?』
『手塚と、笠原さんが、…ハッ、囲まれてる…ハッ…!』
『…ッ!すぐ行く』
小牧の言葉を聞いて心臓を鷲掴みにされた気がした。
ずっと走っていたせいで身体が重い。
それでも、走る。
「―――郁、」
待ってろ。無事で居てくれ。
+++
体力的に大分きつくなってきた。
手塚も同じようなもので、2人とも息が荒い。
「…ハッ、…どれくらい経った?」
「…さあな、…ハッ」
終わりが見えない。
査問のときもそうだったが、今回は精神面でも体力面でも追い詰められる。
相手を投げ飛ばした刹那、足を払われた。
体勢がぐらりと傾く。
「…!笠原ッ!」
手塚の叫び声。
良化隊員達が一斉に飛び掛かろうとしたそのとき。
「―――郁ッ!」
誰よりも愛しい、あの人の声が聞こえた。