短編@
□後ろ姿ばかり追いかけて
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気が付けば、私はいつもあの人の背中を追いかけていた。
私よりも小さいけれど、とても大きくて精悍なあの背中を。
「笠原、ついでに俺の分のコーヒーも頼む」
「それくらい自分でしてくださいよ」
「別にいいだろ。ついでだついで」
「はいはい、堂上教官」
高校生のときに助けてもらった王子様の背中を追って、図書隊に入った。
顔も覚えていないし名前も分からないけれど、追いかけずにはいられなかった。
「あ、笠原」
「今度は何ですか?」
「砂糖入れすぎるなよ」
「分かってますよそれくらいッ!」
図書隊に入っても、王子様なんて見つからなくて。
その代わりに、今目の前にいる鬼教官がいた。
顔をあわせるたびにいがみあって、怒られて……でも困っているときには一番はじめに来てくれる、そんな人。
「すまん。…で、何かあったのか?」
「何でですか?」
「今日はミスを一つもしてないからな」
「しっ…失礼な!私だってやるときにはやりますよ!」
そして私は知ってしまった。
私を助けてくれた王子様は、その鬼教官だったという事に。
つまり私は高校生のときから堂上教官の後ろ姿を追いかけている。
勿論、今も。
〔後ろ姿ばかり追いかけて〕
((…いつか必ず、抜かしてみせる))
御題元・Silence