短編@
□頬を伝うモノ
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誰かの押し殺した泣き声が聞こえた気がして目が覚めた。
その声は、俺のすぐ隣から聞こえた。
「…ック、…う、……ッ…」
「……郁?」
「!…篤さ、ん…」
郁をそっと抱き締める。
頬を伝う涙を指で拭い、目尻にキスをおとす。
「どうした?怖い夢でも見たか?」
俺の問いに軽く頷く彼女。
郁が落ち着くのを待つ。
「あのね、…夢を見たの。図書館の前で、大きな抗争中で。銃は使っちゃいけないはずなのに、向こうは持ってて。それで…篤さんが…」
そこでまた黙り込んだ郁を、少し強めに抱き締めた。
「俺は、ここにいる。お前の隣に」
「うん。…夢の中でね、篤さんが冷たくなっていくの。必死に抱き締めて体温が下がらないようにしてるのに、どんどん、どんどん」
そこで一度言葉をきり、言う。
「すごく、…怖かった。私たちがいた場所では、こんなことがいつ起こってもおかしくなかったんだ、って…」
「でも今は違うだろ?銃を使うのは禁止されてる」
「うん」
郁が俺の背中に手をまわした。
「…あったかい。生きてる」
「あぁ、生きてる」
〔頬を伝うモノ〕
((生きてるんだ、俺達は))
御題元・Silence