短編@
□触れるだけの、ぎこちないキス
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「小牧さん」
「何かな?」
この人は、小牧幹久さん。
私の、自慢の彼氏です。
私の言いたいことも、したいことも、全部全部分かってくれます。
でも、一つだけ…どうしてもしてくれないことがあります。
…手を、出してくれないんです。
いや、私が成人していない事を気にしているのは分かってますよ?
でも、でもね。
時々不安になるんです。
『私に魅力がないんじゃないか?』って。
だからほんの少しだけ。
イタズラしてみようと思います。
「これ、どうかな」
「それは丈が短すぎない?」
「そうかな?」
今日は、ショッピングモールでお買い物。
私の服を買いにきました。
さっき小牧さんに見てもらったのは、普段なら履かない短いスカート。
これも、イタズラの一部です。
「毬江ちゃんにはこっちの方が似合うよ」
「うーん…でも、たまにはこういうのも挑戦してみたい、というか…」
「ダーメ。はい、こっち」
「……」
お、押し切られた…。
でも、まだ負けません!
今日は絶対に困らせてみせますから!!
+++
結局、あの手この手で頑張ったけど、全部ダメ。
悔しいというか、適わないというか。
人気があまりない公園で、小牧さんが急に振り向きました。
「今日、何かあったの?」
「……」
やっぱり気付いてました。
それなら、と顔を上げて、真っ直ぐに見つめ、
「毬江ちゃ…」
触れるだけの、軽いキス。
これが、最後のイタズラです。
「はぁ…もう知らないよ?」
「…えっ?えっ?!」
かなりきつく抱きしめられました。
そんなに悪いことしたの?
「我慢してたのにさ。それはわざと?」
「…ッ!」
〔触れるだけの、ぎこちないキス〕
(次はないからね?)(は、はい…)
御題元・Silence