短編A

□アドレス消去
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「携帯って怖いよね」

「…は?」



小牧が呟いた言葉に反応してしまった。

今、俺たちは隊舎の俺の部屋でビールを飲んでいた。
お互いに自分が最近読んで面白かった本を勧め、その話題が一段落ついた頃だった。



「なんかさ、携帯ってすぐに連絡とれるだろ?それは凄く良いことなんだけどさ」



そこで一度ビールを煽った。



「彼女がもし異性と連絡とってたら…って思うとさ」

「まぁ…そうだな」

「かといって相手の携帯見るのはプライバシーの侵害だし」

「…急にどうした?」

「毬江ちゃんの携帯たまたま見えちゃったときに、男のメアドが入ってた」

「それくらい普通だろ」

「分かってるんだけど…なんか嫌なんだよなー」



そういって机に突っ伏した小牧を横目で確認しつつ、小牧が飲み干した缶を数えた。

…不味い。
コイツ酔ってるな。



「毬江ちゃんはそんな人じゃないだろう」

「知ってる」

「……」



誰かこの状態をどうにかしてくれ。
せめて解決策を教えてほしい。



「…堂上は不安にならない?」

「不安にならない訳ないだろうが」

「うわ、眉間のシワ凄い」

「……逆に、俺たちの携帯に女のメアドが入ってたら不安なんだろうな、あいつら」

「まぁそうだよね」



小牧はおもむろに頷くと、携帯を操作し始めた。



「…小牧?」

「それなら、その不安を少しでも取り除こうと思って」



そこまで言ってから、力尽きたようにその場に寝転んだ。



「…おい、」

「飲み過ぎて気持ち悪い…ごめん、寝かして」

「ったく…笠原じゃないんだから」

「ごめんねー可愛い笠原さんじゃなくて」

「………」



〔アドレス消去〕



翌日、小牧が消しては困る人のアドレスを消していて顔を青くするのはまた別のお話。

御題元・Silence
 

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