短編A

□今はこれが限界
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長いキスをするのはこれで何度目だろうか。

そう考えていると、俺の服を掴んでいる指に力が入った。

名残惜しいが、仕方ない。
唇を離すと同時に、郁がもたれかかってきた。


彼女が指に力を入れること。
それが、息の限界を知らせる合図。
それは同時に、俺の理性の限界が近いことの合図だという事を最近理解した。

彼女の荒い息に、潤んだ瞳。
それが俺にとってどれだけの破壊力を持っているかなんて、彼女は知らないだろう。

理性が崩れ落ちそうになるのを必死で押し留めていると、彼女が呟いた。



「ずるいです、篤さん」

「…何がだ」

「なんていうか、余裕がある、というか」



余裕?
そんなもの、どこにもない。
あるのはただ、お前が欲しいという欲望だけ。

それを言えば、お前はどう思うだろうか。



「そんなことない」

「ほら!今だって笑みを浮かべてるじゃないですか!」

「表情だけ、な」

「えー…」



絶対嘘だ、とかなんとか呟いている彼女の頭を撫でる。

こうすれば、大抵は上機嫌になる。
我が彼女ながら単純だ、と思った。



「…じゃあ、そろそろ帰るか」

「……はい」



あまり気乗りしていない返事に、また苦笑した。
そう思っているのは俺も同じだ。



〔今はこれが限界〕



(…続きはまた今度な)(ッ…!)

御題元・Silence
 

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