短編A

□幸せが壊れる音
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たくさんの銃声が鳴り交う中、一際大きく響いた音。


パァン……ッ


周りの隊員たちが一斉にこっちを振り向く。

え、何で?
私は、何も、



「郁ッ」



なぜか泣きそうな顔でこっちに向かって走ってくる篤さん。

あーあ、また仕事中なのに名前を呼んで。
あとで皆にからかわれちゃう。



「郁、郁…っ」



何?篤さん。
何回も呼ばなくても、ちゃんと聞こえてるよ?



「笠原さんっ」

「笠原ッ!」



あれ?
皆してどうしたの?

そう思ってから、気付く。
自分の腹から、温かい液体が流れ落ちていることに。

そうか、私は撃たれたんだ。
だから皆こっちを見てるんだ。



「しっかりしろ、郁!」



声を出そうとするけれど、思ったように口が動かない。

鉄の味がする。
徐々に目が霞んできた。
視界が狭まり、色がなくなっていく。


―――私は、死ぬの?


そりゃそうだよね。
だってお腹だよ?
たくさん臓器が集まっている場所だよ?

でもね、もう少しだけ、私に時間を頂戴。
まだ私は、大切なことを伝えてないから。



「あつ…さ…」

「郁、なんだ…!?」



まるで私をこの世から放さない、というようにしっかりと私を抱きとめている篤さんの耳元で、そっと囁く。



〔幸せが壊れる音〕



(愛、して…る)((ありきたりな言葉だけど、どうしても伝えたかったの))

御題元・Silence
 

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