短編A

□相合傘
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ぼーっとした頭で空を見上げる。



「あー、早く止まないかな…」



寮に帰る途中、急に柴崎からメールがあった。

『焼肉のタレ買ってきて!』

迷わずにコンビニに寄った。
そこまではよかったのだが、買い終わって店をでると雨が降っていた。
ここからなら走れば大丈夫か、と思ってたら雷が鳴り始めた。

…傘、持ってくればよかったな。

雷が鳴る中走って帰る訳にもいかず、結局雨宿りするはめになってしまった。

…誰か、迎えにきてくれないかな。

そう思うと、頭をよぎったのはあの人の影。



「篤さん…って来る訳ないよね」



あの人はきっとまだ、働いているはず。
だから来るわけ…



「そんな所で何してんだ?」

「…篤さん!?」

「そんなに驚くことないだろ」



私の目の前に、あの人がいる。



「だって…」



だって、あなたの事を考えていたから…って言える訳がない。



「ほら」

「え、何ですか?」

「傘、ないんだろ?」

「でも…」

「いいから、早く」



篤さんは傘をつき出している。
でも、私がこれをとったら篤さんが濡れることになる。



「…じゃあ、」



そう言って傘をもらう。



「じゃ、早く帰れよ」

「はい…」



それでもやっぱり篤さんが濡れるのは嫌だから、



「…何してんだ」

「篤さんが濡れないように、」

「じゃあ郁が帰れないだろ」

「…でも篤さんが」



篤さんに傘を傾ける。



「わかった、これでいいだろ?」



そう言うと彼は私の手をとった。



「…恥ずかしくないんですか?」

「…恥ずかしいが、これしか思いつかなかった」



照れたようにそう言うと、彼は顔をそむけた。



 [相合傘]



((どうしよう、ドキドキが止まらない…!))
 

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