短編A

□あなたは知らない
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「…」



深い眠りから目を覚ます。

時計を見ようと寝返りをうつと、細い腕が邪魔をした。
腕の持ち主を見ると…寝ていた。
起こしたのかと焦った俺が馬鹿みたいだ。



「篤さん、…」



名前を呼ばれ顔を上げるが、郁が起きた様子はない。

もう少しだけ寝よう、そう思ってずり落ちた布団を引っ張りあげる。



「消え、ないで…」



はっとした。

郁はまだ眠っていた。
ただ、涙をこぼしながら。

優しく涙を拭い、郁を抱き締める。



「消えない。消えないから。だから…」



泣くな。
お前が泣くと、俺の思考は止まってしまうから。

お前は知らない。
自分が寝ているとき泣いていることを。

お前は知らない。
俺がそれをみてどんなに愛しく思うか。
どんなに胸が締め付けられるか。



〔あなたは知らない〕



(…俺が、どれだけお前のことを想っているか)

御題元・Silence
 

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