短編A

□大好きだった。
1ページ/1ページ


「…郁」

「なんですか?」



珍しく休みがとれた今日。
デートしよう、と郁にメールすると、すぐにOKの返事がきた。



『どこか行こうか』

『いや、篤さんの部屋でのんびり過ごしたいです』



だから今、お互いに背中を預け本を読んでいた。

背中に感じる温もりがあたたかすぎて。
無意識に名前を呼んでいたらしい。



「…いや、なんでもない」

「え、気になるんですけど…」

「本当になんでもないから」

「本当ですか?」



後ろを見ると、彼女は俺のほうを見ていた。

その真っ直ぐに見つめる目が好き。
短めで少し癖のある髪が好き。
柔らかい唇が好き。
いつも短く手入れされている爪が好き。

彼女をつくっている全てが、愛しくてたまらない。



「大好きだったんだ、」



一度言葉をきる。



「もう、そんな言葉じゃあらわせない。…愛してる」



彼女は俺の背中に抱きついてきた。
本がバサリと音をたてて落ちる。



〔大好きだった。〕



(私も、…愛してます)(知ってる)

御題元・Silence
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ