短編A

□消しゴム
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「手塚はさ、」



昼食中、急に笠原に話しかけられる。
箸をすすめながら目で続きを促した。



「消したい過去ってある?」

「…は?」

「記憶を消しゴムで消す、みたいな感じで」

「俺は笠原さんの方が聞きたいかな」

「そういう小牧教官はどうなんですか」

「やっぱ手塚でいいや」

「…(やっぱって!)」

「ほら光、言いなさいよ」



麻子にまで言われたので、渋々口を開く。



「俺は、兄貴と啀み合っていたあの時期を消したい」

「「あぁ…」」



納得したように返事をする皆。
…そんなに分かりやすかったか?



「で、笠原は?」

「私は…やっぱ、消したくないなぁ」

「何で?堂上を投げ飛ばしたり、王子様発言したり、いろいろやらかしたのに」

「ちょ、小牧教官!?」

「あー、確かに。ここ数年を見るだけでもたくさんあるのに、今までの分を考えたら凄い量になりそうね」

「柴崎まで!」

「で、何で消したくないんだ」

「…1つでも記憶を消したら今の自分じゃなくなると思うから。どんな事でも、今の私を形づくる1つだから」



そう言って笠原は笑う。



「それに、」

「それに?」

「篤さんを投げ飛ばしたり、王子様発言をしてなかったら…結ばれなかったかもしれないし」

「……強いお酒をちょうだい!」

「午後の業務どうすんだよ!?」

「とりあえず堂上は笠原さんとどっか行って。ここでイチャつかれても困るから」

「「イチャついてない(です)!」」



〔消しゴム〕



(…やっぱり、俺も消さなくていいや)(ふーん)((柴崎とこういう仲になれたのは兄貴のおかげかもしれないし、な))

御題元・Silence
 

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